店主は妄想族(私小説) その十九「怠慢」

私は午後八時の閉店後に店舗の二階にある住居に上がり、夕食を含めて小一時間ほどして、シャッターを下ろした一階の横口から店の中に戻った。六つある店内の蛍光灯の一つを点して、レジのある机の椅子に掛けた。シャッター越しに、雨を予感する雷の音が遠く鳴った。レジの斜め前にある電話機の表示する時計が、午後九時七分を示していた。
私は、レジ机の上においた携帯用のパソコンにむかった。来月のフェアの原稿を作るために、パソコンのキーを打ち出した。店の前の市道を往来する車の音が、シャッター越しに聞こえた。店舗の屋根を雨がポッポツと落ちる音がした。しばらくすると、屋根に落ちる雨がプツプツと打つ音になって、やがてバシャバシャと連続して打つ音にかわった。
私はパソコンにむかって二時間ほどした午後十一時すぎに、強く降ったり弱く降ったりして続いた雨は止んで、店内に夜の静けさが戻ってきた。
雨が止んで十分ほどしたら、店の前をトラックが通過する音を聞いた。トラックは後ろが空のせいか荷台が所々にくぼみがある路面をガタンガタンと弾むような音をさせては通って行った。大型らしいトラックの轟くようなエンジン音は、シャッター越しに私の店舗を大きく振動させた。その大型トラックは、店の前から五十メートル先の大通りにある信号につかまったらしく、ブレーキを掛ける音がしたが、その音も大きくて、店の中まで響いてきた。
私は大型のトラックが通って間もなくして、店内のいずれかで、ガザ、ガサ、ガサと、小動物がゆっくりと動くような音を耳にした。パソコンから目を離して店内を見たが、生き物らしいものは見えなかった。
店が在るところの地名が花畑であるように、店内に、コオロギ、カマキリ、トカゲ、カエルなどが入ってくることがあり、私は小動物も入って来ないとは断言できないので・・・・・・。
何の音であるかを確かめるために臆病な私は、机の脇に常に置いてあるレジの後ろの天井近くの窓を開閉するための長さ一メートル二十センチほどの軽いが丈夫な棒を手にした。
恐る恐る私は、店内の中ほどを四坪ほどのカタログの入ったケースが占める七坪ほどの店を時計回りに、北側の壁に備えた自動車雑誌を中心とした本棚、東側の備えた車の書籍を中心の棚、店の正面である窓のある南側、そして、レジ机のある西側と一回りしてレジ机の側に戻ったが、小動物が隠れている気配はなかった。
私は安堵した気持ちでもう一度店内を時計回りに見ていくと、北側に備えた三つある一つの棚の上段に並んでいる自動車雑誌のうちで五、六冊が斜めに傾いているのを見つけ、その段の右端に、三、四センチの空間ができているのを見つけた。
上段に手を伸ばして斜めになっている雑誌を立て掛けて、隣の本棚に移ろうとしたら、立て掛けた雑誌がガサ、ガサ、ガサと音をさせて、ゆっくりと倒れて、先ほどのように傾いた。
先ほどの小動物の動くような音の正体が分かったのと、大型トラックの通過した際に、本棚の上段で倒れそうになっていた雑誌が振動を受けて、徐々に傾いて、小動物の動くような音をたてて傾いたのだと判断した。上段の棚には、傾いた雑誌を立て掛けた後に、一時的に別の雑誌を入れて、レジノ机に戻った。
静かに店内に響いた音の正体が分かってほっとした私は、パソコンにむかったが、もう一度店内に目を凝らすと、北側の本棚も東側の棚のあちらこちらに小さな空間ができているのを目にした。
このところ本棚の補充を怠っていた私は、”明日は、棚の補充を“最優先しよう”と決めて、パソコンにむかった。

★11月のフェア
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店主は妄想族(私小説) その十八「持病」

私はフェア&入荷・等の原稿を作るために、レジ机の上においた携帯用のパソコンにむかってキーを押していた。
午後の二時過ぎに、入口のドアがキューと開いて、二ヶ月に一度ほどお見えになる四十代半ばの長身であるが細身の男性が、背を屈めるようにして入って来られた。
「いらっしゃいませ」と挨拶した私は、いつもは会社帰りの夕方に来られるのに、今日は昼間にいらしたのは・・・と思った。
「こんにちわ」と妙に明るい顔をされて返された四十代の男性は、笑みしながら奥の本棚の方に向かわれた。
私は時々にパソコン越しに顔を上げていたが、フェアの原稿の半分ほど作ったところで手を休めて顔を上げると、三つある真ん中の本棚の前に立ち、棚の中段に並んでいる一九八十年代の自動車誌を取り出しては戻していた男性が、数冊の自動車誌を傍らにおいて、横の本棚に移動するのを目にした。隣の棚に移った男性が棚に手を伸ばして手に取るのでもなく、並べられた自動車誌の背表紙を眺めているように見えた私は、お目当てのものをゲットして余裕で、他の本棚の雑誌を見ているのであろうと思い、
「いつもは夕方にお見えになるのに、今日は昼間にいらっしゃいましたが、如何したのですか?」と訊ねると、
「二週間ほど前に人間ドックによる健診を受けたのですが、その結果が今日に分かるので、有休を利用して病院に行ったのです。こちらには、その帰りに寄ってみました」とレジ机のある方に振り返り笑みしながら言われた。
「どうでしたか?」と私が心配そうに訊ねると、
「大丈夫でした」と笑顔で答えた男性であったが、少し顔を曇らせて、
胃が少し荒れていると伝えられた先生に、
「五、六年前の会社の健診から、レントゲンによる胃の検査の度に、胃の一部に黒い影が写るので、その度に大きな病院で内視鏡検査を受けるように勧められました。しかし、病院での内視鏡の検査の度に、その黒い影は問題ないとのことで・・・・・・。それで、今年は会社の健診を受けずに、健診の中で、胃のレントゲンをしないで直接に内視鏡検査をされる人間ドックを選んだのです。今度も胃について云われたので、今までの健診での胃の検査での経緯を話すと、その先生は、『レントゲンの検査の度に胃に黒い影がでるのは、胃の一部が慢性の胃炎になっていて、そこがレントゲンでは黒い影になるのでする』と話された。ぼくは、慢性の胃炎と分かってから、病気には入らないかもしれませんが、胃炎は、ぼくの持病だと思いました」とひらきなおった口調で話されると、本棚の方に向かれた。
上段の方から雑誌の背表紙をゆっくりと目でおっている男性から目を離して、私はパソコンのキーを押し出した。
私はフェアと入荷の原稿を作り終えたので携帯用のパソコンをとじて、椅子から立ち上がろうとしたら、机上に二冊の自動車誌を男性がおかれた。私は立ち上がったままに会計をして、支払いの終わった自動車誌をシルバーのビニール袋に入れて手渡しすと、受け取ったシルバーの袋を机上に置いて細身の男性が、
「ご主人さんは、持病はありますか?」と訊いてきた。天井を見上げるようにしてから私はおもむろに、
「ありますよ」と答えて、右手を後ろに回してお尻の割れ目を抑える格好をした。
「ああ、痔ですか。あれは痛いらしいですね。一緒に住んでいた弟も痔で、トイレから出てくるたびに顔をゆがめていました」と、弟さんのされた表情をまねるようにして言われた。
「もう、十二年ほど前になるのですが、手術をしたのですが、完全に治っていなくて、寒い冬の日などは、突き刺すような傷みがあり、そんな日はトイレにいくのがためらいますね」と私は困り顔で話した。
「それは、お気の毒です」と言った男性は、次に言おうとしたら、電話が鳴った。私は受話器を取って店名を伝えると、まちがいでしたと謝ると電話が切れた。受話器をおいて先ほどの姿勢になって私に、待っていたように、
「ご主人さん、“まさしく痔病”ですね」と抑えた笑いをして細身の男性が言われた。
「確かに・・・・・・」と私も同調するように笑みすると、男性は大きな笑みをされるとくるりと回り出口に向かわれた。
店主の「ありがとうございました」の声が背後にして、長身の男性は出口のところで少し頭を下げ気味にすると、パタンとドアの閉まる音と共に外に出て行かれた。

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マツダT1500、東急くろがね、等。外国:オースチン、MG、オペル、フィアット、シムカ、フォード、クライスラー、ダッチ、等。
10/26(土)~11/10(日)

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店主は妄想族(私小説) その十七「小動物」

五月の風が吹く日曜日の午後、柔和な表情がされた青年が来店された。レーシング・グラブ名入りのTシャツを着た背丈がある二十代後半と思われる男性は、奥の三つある本棚のレジの机に一番近い左の棚の下段に揃えているレース・プログラムを、体を屈めるようにして、取り出してはパラパラとめくり戻していた。
この男性は三十分ほど前にお見えになった際に、「東京から筑波サーキットで催されたレースを観戦に来たのですが、この店が車で二十分ほどの所に在るのが分かって、帰る前に寄ってみました」と話された。
「東京から逆の方向にある当店に、わざわざいらしていただき、ありがとうございます」と、私は来店されたことに礼をのべた。
表裏のカバーにダメージがないかのチェックを終えた七十部程の自動車カタログを、机の脇に置いて、いままで脇に置いていた十五冊ほどの自動車ガイドブックを交換するように目の前に置いて、同じように傷みや折れなどが無いかを調べようと机に向かった私に、「サーキットからつくば市に向かってくる途中の道路で、五十メートルほど先でしたが、猫が横切るのを見ました」と少し興奮気味に棚の傍らから話し掛けてきた。
「私も猫が道路を横切るのを見ました。犬も横切るのを見ましたね」と顔を上げて応えると、「こちらでは、猫や犬が道路を横切るのは、珍しくはないのですね」と言われた。
「私は日常の足にスーパーカブを使っているのですが、少し前に研究学園駅の方に用があり、近道をしようと県道から横道に入りしばらく走ると、イタチかモグラのどちらかでしたが、横切るのを目にしました」と話すと、「のどかな光景ですね」と、笑みしながら言われた。「多分イタチであったと思いますが、急にバイクの前を横切ったので、危うく転倒しそうになりました」と硬い表情をして話した。
すると、青年の顔から笑みが消えて、「いくら小さな小動物とはいえ、目の前を急に横切ったら、慌ててハンドル操作を誤ってしまいますね」と、引きった面持ちで言われた。
私は男性の表情を見て、せっかく楽しみに探し物をしている男性を緊張させてしまったなと思い、気持ちを和らげようと、“横切る話”つながりで、「先日のことですが、南から北に向かうために交差点で信号待ちをしていると、東から西の方へ四輪駆動の乗用車がゆっくりと横切るのを見ました。何気にその四駆の乗用車を見ていたら、ボディに貼られたステッカーが、茨城では不適合な文句だと思ったのです」と話して、貼られたステッカーの文句を伝えようとしたら、入口のドアがキューと開いて、大柄な男性が店に入って来た。その男性は店内を見回してから、キャンプ仕様の車を特集した本がないかと訊ねてきた。
私は脳内にその仕様の車を集めた本が頭に浮かんでこなかったが、椅子から立ちあり、店の中ほどに備えた棚の方に向かって関連した雑誌類がないかと見てから、ワゴン車のカタログが積み重ねてある場所からキャンピング仕様のカタログを出して、大柄な男性に見せてみた。
先ほどの話しの途中であった二十代後半の男性は、棚からレース・プログラムを取り出しては出しては見ては戻していた。ワゴン車のキャンピン仕様のカタログをじっくり見ていた男性は、参考になると言われて、そのカタログをお買い求めになると、パタンと閉まるドアの音と共に外に出て行かれた。
キャンピング仕様のカタログをお買い求めになった男性が帰られると、二十代後半の男性はレース・プログラムに伸ばす手を止めると、レジのある机の方に向かれて、「キャンピングカーの興味のある方いらっしゃるのですね」と言ってから、交差点を横切った四駆車のボディに貼られていたステッカーのも文句について、興味あり気に訊いてきた。
「ステッカーの文句は、“熊の出没に、注意!!”、でした」と私がおもむろに話すと、「茨城では、熊が出たのは、聞いたことはありませんね」と言って、男性はくすっと笑った。

★10月のフェア
<「出版物で見る1960&70年代のF1グランプリ&インディ500」マガジン&ブック フェア。オートスポーツ誌、カーマガジン誌、(ノーベル書房)栄光への爆走、等。
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店主は妄想族(私小説) その十六「ついで」 


 まだ外が明るい平日の夕方、入口のドアがキューと開いて、五十代半ばと思われる細身の男性が姿を現した。見覚えのあると思いながら私は、「いらっしゃいませ」と挨拶すると、「夕暮れ時なのに、暗くはありませんね」と返されて、男性は本棚の並ぶ奥の方に歩かれた。
 レジのある机に向かって細身の男性を思い出せないままに私は、二輪車カタログを手にして傷みが有るか折れが無いかなどを調べていた。百部程のカタログの三分の一ほどが終わって何気に顔を上げると、取り出した自動車誌を本棚に戻すところで、誌の表裏のカバーや背の表紙を念入りに見てからもどすのを目にして、旧店舗の時に月に一度ほど、つくば市茎崎からお見えになられた男性であるのを思い出した。
 当店は十二年ほど前に、現在の在るつくば市北部に当たる花畑地区に移転したのですが、以前はここより車で七、八分ほど近くに大学がある、同市南部に当たる天久保地区に営んでいました。旧店舗の周辺は、飲食店、喫茶店、居酒屋、ファミレス、等が多くあり、賑やかな所でした。
 五十代の男性がつくば市の南部に在ったお客さんと分かると、旧店舗の時に何度か来店時に云われたことも思い出した。
『ぼくは出不精なので目的が無いと出かけることはありませんが、この天久保にはだいぶ前から御ひいきの喫茶店があり、週に一回は来ています。ここの店は、喫茶店の帰りに寄り道した途中で見つけました』と話されたのでした。
私が二輪車カタログの三分の二ほどをダメージがないかのチェックの途中で手を休めていると、
「ご主人さん、こちらに移られて、何年になります」と棚のそばから男性が話し掛けてきた。
「以前は大学の近くの天久保で営んでいたのですが、十二年前に花畑に移ってきました」と応えると、
「もう、そんなに経ちますか。ぼくは天久保に店が在った時には、月に一度ほど行っていた。こちらに移られたことは知っていたのですが、つくば市北部には用がなくて、足が向かなかったのです」と恐縮する様に話された。
旧店舗が在った天久保地区から車で七、八分ほどの距離なのに、移転したのを御存じありながら・・・・・・、一度もお見えに・・・と思いながら、「天久保から移転して十年以上も経ちますが、その間に一度もお見えにならなかったのに、先月から今月にかけて、二週間おきにお見えになっていますが、何かありましたか?」と、私は少し意地悪く訊ねると、
「先月から歯の治療をしているのですが、その歯医者さんが、子供の頃から診てもらっている先生で、一年前に僕の家の近くから北部の大穂に移転されて・・・。それで、二週間おきに、歯の治療でつくば市の北部に来ています」と話された。
私は花畑から歩いて十分ほどの距離の大穂地区のホームセンダーの近くに一年ほど前に開業された歯科クリニックを頭に浮かべながら、「歯の治療の後に、当店に忘れずに寄っていただき、ありがとうございます」と少し皮肉を込めて礼を言い、目の前に置いた三十部ほどの二輪車カタログの一部を手にしてチェックを始めた。
 全部を調べ終えた二輪車カタログを、座ったままの姿勢で椅子の後に積んだ雑誌の上に重ねるようにおいて前を向くと、男性が数冊の自動車誌をお元になりレジ机に置かれた。
私は会計をするために立ちあがると、「読みたい記事の載っている雑誌が三冊も見つかって、よかったです」と嬉しそうに話された。私はお目当てのものが有ってよかったですと応えながら会計をした。
お買い上げの雑誌をシルバーのビニール袋に入れて手渡しする際に、
「歯の治療は、長くかかるのですか?」と訊ねると、
「虫歯が何本か見つかって、先生から『半年ほど治療に要する』と言われました」と、さほど苦にされていない口調で男性は答えた。
私は歯の治療が長くかかるのをむしろ喜ぶように話された男性に、千円以上のお買い上げの方に差し上げているポストカードが入っているケースに、
「お好きなポストカードがありましたら、一枚ですが、どうぞ」と勧めた。
細身の男性は、イラストで描かれた車のポストカードを手にしながら、
「これを、いただきます」と言い、カードをシルバーの袋の中に落とすように入れると、「ありがとうございました」と言われた。
五十代半ばの男性は、満足そうな顔をされて袋を提げて出口の方に向かわれて、ドアを半開きにしたままで、忘れ物をしたのかなと言う顔をしている私に向かって、
「つくば市の北部には歯の治療で来ていたのですが、今ではこちらのお店に寄るのが目的になりました」と笑みしながら告げると、パタンと閉まる音ともに外に出で行かれた。
                    
★10月のフェア
<「出版物で見る1960&70年代のF1グランプリ&インディ500」マガジン&ブック フェア。オートスポーツ誌、カーマガジン誌、(ノーベル書房)栄光への爆走、等。
9/28(土)~10/6(日)

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店主は妄想族(私小説) その十四「性格判断」 おかげさまで開店22周年!! 

入口のドアがキューと開いて、小柄ではあるが体格の良い男性が姿を見せた。二年ほど前から月に一度ほど栃木からお見えになるカタログ収集家の三十代の男性は、入店した直後に、「何か入りましたか」ではなく、「何か分かったことがありますか」と挨拶代わりに言われる方です。
「いらっしゃいませ」と私が挨拶すると、「何か分かったことがありますか」と返された。「わかったことは、ありませんでした」と私は前回と同じように応えるのではなく、「長年に店をやってきたことで、分かったことがあります」と応えると、レジのある机の方を向いて、「どんなことですか」と関心ありげに訊いてきた。
「長年に店をやっていることで、お客さんの乗って来る車で、ざっくりですが、その人の性格が判るようになりました」と答えると、男性の眼が一瞬に輝いたが、その輝きはすぐに失せて、「カタログについての、話しではないのですね」と関心なさそうに言うと、すうーとカタログ入りのケースの方に進まれた。
私がレジ机に向かって、先日にカタログと一緒に買入れした二十個ほどのミニカーを、ケースに傷みがないか部品が欠けていないかと一つ一つ確かめていたが、全部に傷みが無いかを目を通したころに、通るところを挟んで向き合うようにおかれたカタログ入りのケースを前にして、三十代の男性が話し掛けてきた。すでにお目当てのカタロクを見つけられたらしく、傍らにおかれていた。
「入店の際に、ご主人さんは、『乗って来る車で、その人の性格が判る』と、おっしゃいましたが、僕の性格は判りますか」と興味あり気に訊いてきた。私は椅子から立ち、駐車場に停まっている宇都宮ナンバーの車を窓越しに見てから、「お客さんは、男性的な性格です」と答えると、少し戸惑いの表情をされたが、「友達から、『男らしい』とか『頼りがいがある』とか云われますね。ご主人さんから言われて、あらためて男性的だな」と受け入れるように言われた。
ミニカーにダメージがないかのチェック終えた私が、ミニカーの入っている透明なケースの正面の右上に値の記したラベルを貼っていると、レジの机の上に三冊ほどのカタログをお持ちなっておかれた。私は手に持っていたラベル貼り機をかたわらに置いて会計をするために立ちあがると、「さきほど、僕の性格を判断されましたが、どのようにして車から、判るのですか」と男性が唐突に訊いてこられた。私は会計を後にして、「当店のお客さんは圧倒的に男性ですが、女性もいらっしゃいます」と前置きして、「“角張った車”に乗って来られる方は、女性でも男性的な人が多く、“丸っこい車”に乗って来られる方は男性でも女性的な感性をおあり方が多いのを、話したりその人となりを聞いたりすることで、ざっくりですが、・・・・・・」と答えると、「僕が乗っている車は、八十年代のホンダのアコードですが、角張っていますね」と言い、「角のある車に乗っているから、男性的と判断されたのですね」と確かめるように言われた。私が頷くと、男性は納得するように笑みをされた。
お買い求めになったカタログ入りのシルバーの袋を提げて男性が、「お訊きして、良いですか」とさりげなく云われたので、「いいですよ」とあっさりと返すと、「ご主人さんは、角張った車と丸っこい車では、どちらが好みですか」と訊ねて来た。私おもむろに、「どちらかと言うと、丸みのある車が好きですね」と答えると、男性は意外だなという顔をしてから、「ご主人さんは、女性的なのですね」と笑みしながら言われた。「女性の感性は、ありますね」と笑みしながら応えると、「ありがとうございました」とのべて、出入口のドアに向かわれた。
出口の近くのインフォメーション・ボード下に、自動車趣味の店では見かけない一般的に女性が好むと言われている五百種類ほどの名車ポスカード・ケースを目にして男性は、「なるほど」と言う顔をされると、パタンと閉まる音と共に店の外に出て行かれた。

★9月のフェア<「カタログで見る、1970&80年代の国産・高級セダン・カー」カタログ&アクセサリー・カタログ フェア。トヨタ/クラウン、マークⅡ、等。日産/セドリック、ローレル、等。マツダ・ルーチェ、等。三菱/ギャランΣ、等。
8/31(土)~9/8(日)>

◆当店主が執筆した《クルマが懐かしい店「店主のひとり言」》を、当店頭で販売中!! くすっと笑えるエピソード集。価格:1000円、A6判(文庫サイズ)並装 187ページ、2014年2月発行。

*つくば市吾妻3-8 友朋堂書店(029-852-3665)でも、販売しています。