店主のひとり言「ロードスター」

 二◯一九年九月中旬、快晴の土曜日の午後のことでした。私は机に向かって店頭に出すための自動車カタログに折れや破れがないかを調べていると、車のエンジン音を耳にした。顔を上げて窓越しに店先の駐車場を見ると、青いロードスターが後ろ向きで入って来るのを目にした。
 入口のドアが開くと、薄手のジャンバーを着た三十代半ばの男性がさっそうと入って来た。私が挨拶をすると軽く頭を下げた男性は、七坪ほどの店内をゆっくりと時計とは逆にまわりながら、一九九◯年代の国産乗用車カタログと明記したボックスの前に立った。
 私はカタログにダメージがないかのチエックを終えて顔を上げると、カタログを見ていた男性が手を休めていいるのを目にしたので、「お車を走らせるには、良い天気になりましたね」と話しかけると、「今日は暑くもなく寒くもなく、ロードスターには絶好の日ですよ」と笑みしながら答えた。
「午前中、大通りを、七、八台のロードスターが、筑波山の方向に連なって走っていくのを見かけました」と私が話すと、「ロードスター・クラブのツーリングかもしれませんね。僕もあるクラブに入っているのですが、今年の五月に、総勢十数台で箱根までツーリングしたのですが、楽しかったですよ」と笑顔で話した。「今度は、いつですか?」と訊ねると、「来月に、房総へのツーリングになっています」と明るく答えて、一瞬ではあるが暗い顔をされた。私が目の前のカタログに視線を戻す際に、その表情を見逃さなかった。
 アクセサリー・カタログとセットになったロードスター・カタログの会計を済ました男性に、「先ほど、来月にツーリングがあると答えた後に、暗い顔をされましたね。クラブに何か問題でもあるのですか?」と、私は遠慮気味に訊いてみた。男性はそれまで見られたのなら仕方ないという表情をされてから、「クラブでのツーリングは楽しいですが、ぼくの所有するコレクションについて、しつこく訊いて来るクラブ員がいるんです。ぼくの持っているものばかり知りたがって、自分のものについては一切話さない人で、その会員と顔を合わせるのかと思うと気が重くなります」と答えた。私が適切な言葉が見つからないまま、「ロードスターラブの会員なのに、“オープン”でないですね」と返すと、「人間的には良い人なのですが、・・・・・・」と苦笑しながら男性は言われた。
 私は窓越しに、オープンにしたロードスターが店先から通りに出で行くのを、交通安全を願いながら見送るのでした。

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2009年~2012年まで、当ホームページで連載しましたブログ「店主のひとり言」から50篇を選りすぐりまとめたもの。店主とお客の織りなすちょっといい話です。

著者 松浦正弘 価格:1000円 A6判(文庫サイズ) 並製 187ページ

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