連作超短編小説 なつかし屋 <数は力なり>
店主の車谷徹が、「どのくらいの数のカタログを、お持ちなのですか?」と訊ねると、月に一度ほど笠間市から来店される上野さんは、「国産車だけですが・・・」と前置きして、「数えたことはないのですが、約一千部程と有ると思います」と答えた。およそのカタログ数を知って店主が「お若いのに、ずいぶんお持ちですね」と感心すると、二十代前半の上野さんは、「カタログは、中学一年生の時から集めています。ディーラーなどを、自転車で巡っていました」と、誇らしげに話された。
店主がレジのある机上に四◯センチほどの高さのチェック済みのカタログを、店頭に出す二十部ほどを残して、奥にある庫に仕舞おうとして椅子から立ちあがると、何時もは来店すると短い会話を交わした後で、入口から向かって右の壁面に接するように横一列に並んでいるカタログの入りボックスの方に歩み寄る上野さんは、机の方に来られて、唐突に、「先月に、『お店を営んでいくうえで心がけていることは何ですか』と訊ねたら、店長さんは最初はびっくりされて、それから天井をみあげるようにして、『商いは、飽きない』と答えられましたね。最初は冗談かと思いましたが、店長さんを見ると、真面目な顔をされていたので・・・。あの言葉を真剣に受け止めてみました」と確かめるように話されて、「僕は物を売る人間ではありませんが、カタログを集める一人として、“集めることに飽きない”と考えるようになって・・・。あのお言葉で、暗いトンネルから抜け出すができました」と、安心気に話された。
車谷が話しかけようとすると、上野さんはすっーと横一列に並ぶボックスの中ほどに寄って行った。突然に話された意図が分からないままに店主は、(先月に、深刻そうな顔をされて訊かれた時に、確かに“商いは・・・”と答えていた)と思い浮かべて、ボックスからカタログを出しては戻している上野さんの方を見ながら、(あの時に、何か悩んでいる様でしたが、あの一言が解決の糸口に・・・・・・)と、もう一度口の中で「・・・飽きない」と云ってみたのでした。
レジ机上にお持ちになったカタログを目にして車谷が、「今回のカタログは、今まで集めていた年代と違いますね」と微笑みながら訊ねると、上野さんは、「今回は、父親が若い頃に乗っていた車のカタログを集めています。前回までは、僕のお気に入りの九◯年代の、国産自動車を集めてきたのですが、ほぼ集め切ってしまったので、これからは・・・」と新たな目標を話された。そのことを聞いた店主は、「カタログ・コレクターであるお客さんの一人で、今までトヨタ車ばかりを集めてきた方でしたが、最近になって、ニッサンやマツダの車のカタログをお買いになられるので、『どうなさいました』と訊ねると、男性客は、『お気に入りのトヨタが一段落したので、これからは親戚の人が乗っていたカタログを・・・』と理由を語られました」と話した。すると、上野さんはにこりとして、「その方のお気持ちが、わかります」とこたえた。車谷が、「何事も、“継続は力なり”です」と称えると、上野さんは頷いてから、「僕はカタログ収集家なので、“数は力なり”です」と、店主の言葉に重ねるように言われた。
店主がレジのある机上に四◯センチほどの高さのチェック済みのカタログを、店頭に出す二十部ほどを残して、奥にある庫に仕舞おうとして椅子から立ちあがると、何時もは来店すると短い会話を交わした後で、入口から向かって右の壁面に接するように横一列に並んでいるカタログの入りボックスの方に歩み寄る上野さんは、机の方に来られて、唐突に、「先月に、『お店を営んでいくうえで心がけていることは何ですか』と訊ねたら、店長さんは最初はびっくりされて、それから天井をみあげるようにして、『商いは、飽きない』と答えられましたね。最初は冗談かと思いましたが、店長さんを見ると、真面目な顔をされていたので・・・。あの言葉を真剣に受け止めてみました」と確かめるように話されて、「僕は物を売る人間ではありませんが、カタログを集める一人として、“集めることに飽きない”と考えるようになって・・・。あのお言葉で、暗いトンネルから抜け出すができました」と、安心気に話された。
車谷が話しかけようとすると、上野さんはすっーと横一列に並ぶボックスの中ほどに寄って行った。突然に話された意図が分からないままに店主は、(先月に、深刻そうな顔をされて訊かれた時に、確かに“商いは・・・”と答えていた)と思い浮かべて、ボックスからカタログを出しては戻している上野さんの方を見ながら、(あの時に、何か悩んでいる様でしたが、あの一言が解決の糸口に・・・・・・)と、もう一度口の中で「・・・飽きない」と云ってみたのでした。
レジ机上にお持ちになったカタログを目にして車谷が、「今回のカタログは、今まで集めていた年代と違いますね」と微笑みながら訊ねると、上野さんは、「今回は、父親が若い頃に乗っていた車のカタログを集めています。前回までは、僕のお気に入りの九◯年代の、国産自動車を集めてきたのですが、ほぼ集め切ってしまったので、これからは・・・」と新たな目標を話された。そのことを聞いた店主は、「カタログ・コレクターであるお客さんの一人で、今までトヨタ車ばかりを集めてきた方でしたが、最近になって、ニッサンやマツダの車のカタログをお買いになられるので、『どうなさいました』と訊ねると、男性客は、『お気に入りのトヨタが一段落したので、これからは親戚の人が乗っていたカタログを・・・』と理由を語られました」と話した。すると、上野さんはにこりとして、「その方のお気持ちが、わかります」とこたえた。車谷が、「何事も、“継続は力なり”です」と称えると、上野さんは頷いてから、「僕はカタログ収集家なので、“数は力なり”です」と、店主の言葉に重ねるように言われた。