連作超短編小説 なつかし屋 <連れない事情>
*登場人物は、実在の人物ではありません。
店主の車谷徹が奥からご来店の挨拶をすると、三年前から月に数度はお見えになる日立市の助川さんは、レジのある机の方を見ずにぺこんと頭を下げてから、「この店は、掘り出し物があるので、気が抜けないです」とこたえた。車谷は「・・・、気の抜けないです」を良い方にとってニコリとしたが、助川さんは店内の品物、特に書籍に目がない助川さんは本棚の方を向かれていて、店主が笑みされたことなど目に入らなかった。本棚の全体を目で追っている助川さんを机越しに見ながら、(品物を見ると時は狩りでもしているかのような目をされているが、それ以外の時はやさしい目をしているし、話し上手で人あたりも良いのに、どうして一度も友達を連れて来ないのかな)と思うのでした。
五坪ほどの店内にある品を見出した助川さんは、まずはショーウィンドの飾り本を手に取り、次に入り口向かって左の壁一面に設けた本棚の窓に近い方の端から順々に目で追って時には手に取ったりして横に移動していった。棚の中ほどまで来て、手前に積まれた雑誌の山に差し掛かると、その山の一番上に手を伸ばしたが、すぐにひっこめた。奥から車谷がその仕草を見ていたのに気づいて、「この山は、手を出すと危ないです」と伐つが悪そうに云われた。店主が、「そこは積み重ねてありますが、倒れるようなことはありませんから、大丈夫ですよ」と話すと、少し視線を下げ気味して助川さんは、「山が崩れるのが心配ではなくて・・・、欲しい物がたくさん有りそうで、下手に手を出したら買い込んでしまいそうで・・・」と不安げにこたえた。心配気な顔を見ながら、(そっち、ですか)と得心した。
本棚の上段から下段へと目で追っていた助川さんは、一番奥の棚の上段を追っているうちに、「新しい自動車年鑑を、補充されましたね」と指摘されたので、車谷が(来られると、棚の隅から隅まで見ていく人だから、少しの変化を見逃さないな)と思いながら、「先日に買い入れした物を、補充しました」とこたえると、助川さんは満足げすると、中段に目をやり今度は、「前回に来た時には、ここに自動車ムック本がありましたが、今日は無いので売れてしまいましたね」と云われた。店主が少しあきれ気味に、「そこのムック本は、お取り置きになりましたので、店頭から下げてあります」とこたえると、「そうなんですね」とこたえた。
店内の隅々まで見終わった助川さんは、二冊ほど書籍を手にされレジのある机の方に来られて、「今日は給料日前なので、これくらいしか買えません」と申し訳なさそうに云われた。店主は「ありがとうございます」とお買い上げになった品入のシルバーのビニール袋を手渡してから、「失礼かもしれませんが、一つ訊ねても・・・?」とうかがうと、「いいですよ」と快く云われたので、「助川さんは、人当たりも良いし話も上手なのに、いつもお一人なので、お友達はいらっしゃらないのですね?」と訊くと、「友人は、たくさんいますよ」と答えたので、「車の好きな友人が、いらっしゃらないのですね」と残念そうに話すと、「その逆で、同じ車の趣向を持つ連れが多すぎて・・・。この店を彼らに教えると、僕が欲しいものを先に買われる恐れが・・・。彼らには、僕が買い漁った後で、教えるつもりです」とこたえた。
店主の車谷徹が奥からご来店の挨拶をすると、三年前から月に数度はお見えになる日立市の助川さんは、レジのある机の方を見ずにぺこんと頭を下げてから、「この店は、掘り出し物があるので、気が抜けないです」とこたえた。車谷は「・・・、気の抜けないです」を良い方にとってニコリとしたが、助川さんは店内の品物、特に書籍に目がない助川さんは本棚の方を向かれていて、店主が笑みされたことなど目に入らなかった。本棚の全体を目で追っている助川さんを机越しに見ながら、(品物を見ると時は狩りでもしているかのような目をされているが、それ以外の時はやさしい目をしているし、話し上手で人あたりも良いのに、どうして一度も友達を連れて来ないのかな)と思うのでした。
五坪ほどの店内にある品を見出した助川さんは、まずはショーウィンドの飾り本を手に取り、次に入り口向かって左の壁一面に設けた本棚の窓に近い方の端から順々に目で追って時には手に取ったりして横に移動していった。棚の中ほどまで来て、手前に積まれた雑誌の山に差し掛かると、その山の一番上に手を伸ばしたが、すぐにひっこめた。奥から車谷がその仕草を見ていたのに気づいて、「この山は、手を出すと危ないです」と伐つが悪そうに云われた。店主が、「そこは積み重ねてありますが、倒れるようなことはありませんから、大丈夫ですよ」と話すと、少し視線を下げ気味して助川さんは、「山が崩れるのが心配ではなくて・・・、欲しい物がたくさん有りそうで、下手に手を出したら買い込んでしまいそうで・・・」と不安げにこたえた。心配気な顔を見ながら、(そっち、ですか)と得心した。
本棚の上段から下段へと目で追っていた助川さんは、一番奥の棚の上段を追っているうちに、「新しい自動車年鑑を、補充されましたね」と指摘されたので、車谷が(来られると、棚の隅から隅まで見ていく人だから、少しの変化を見逃さないな)と思いながら、「先日に買い入れした物を、補充しました」とこたえると、助川さんは満足げすると、中段に目をやり今度は、「前回に来た時には、ここに自動車ムック本がありましたが、今日は無いので売れてしまいましたね」と云われた。店主が少しあきれ気味に、「そこのムック本は、お取り置きになりましたので、店頭から下げてあります」とこたえると、「そうなんですね」とこたえた。
店内の隅々まで見終わった助川さんは、二冊ほど書籍を手にされレジのある机の方に来られて、「今日は給料日前なので、これくらいしか買えません」と申し訳なさそうに云われた。店主は「ありがとうございます」とお買い上げになった品入のシルバーのビニール袋を手渡してから、「失礼かもしれませんが、一つ訊ねても・・・?」とうかがうと、「いいですよ」と快く云われたので、「助川さんは、人当たりも良いし話も上手なのに、いつもお一人なので、お友達はいらっしゃらないのですね?」と訊くと、「友人は、たくさんいますよ」と答えたので、「車の好きな友人が、いらっしゃらないのですね」と残念そうに話すと、「その逆で、同じ車の趣向を持つ連れが多すぎて・・・。この店を彼らに教えると、僕が欲しいものを先に買われる恐れが・・・。彼らには、僕が買い漁った後で、教えるつもりです」とこたえた。