連作超短編小説なつかし屋     <性格判断>

*登場人物は、実在の人物ではありません。

店主の車谷徹は、軒先に並べているサービス品の補充を済ませて店の中に入ろうとして、当方の駐車場に角ばった形のスカイラインが停まるのを目にした。車谷がレジのある机上をかたずけしていると、ドアがすぅーと開いて、筑波山の麓の沼田地区にお住まいの二十代で独身の沢辺友里さんが姿を見せた。車谷が、「いらっしゃいませ」と挨拶をすると、ジーンズ姿の沢辺さんは「こんにちは」とこたえて、「今日は、近場で過ごすことにしました」と話してきた。目鼻立ちのしっかりした美顔の友里さんを面と向かって見れないままに、「せっかくのお休みなのに、近場でなんて・・・」と惜しむようにかえすと、「母親が体調がすぐれないので、今日は遠出をひかえました」と綺麗なお顔を曇りがちに云われた。
 入り口から向かって右の壁に横一列に並んだボックスの中程に立ってカタログを選んでいた沢辺さんは、R32型のスカイラインと同型のオプションが一緒になったカタログ・セットをレジのある机にお持ちになり、机に向かって品を透明のビニール袋に入れていた車谷が手を止めて顔を上げると、オプション・カタログを手にしながら、「本カタログの方は持っていますが、こちらのカタログは持っていませんでした」と云われた。店主は、(「もしかすると、「オプション・カタログだけ売っていたただけませんか」と云われるのでは・・・」と用心したが、友里さんは美しい顔に素敵な笑みをされて、「スカイラインのカタログ・セットを買わしていただきます。本カタはダブりますが、好きな車のカタロクですから、何部あっても良いです」と云われた。用心深い自らを恥じながら店主は、(沢辺さんは、男気がある女性だな)と思った。
 沢辺さんはカタログ・セットをお買い上げになられてからも店の中のゆっくりと見ていたので、車谷が、「この仕事を続けてきて、わかったことがあります」と話し掛けると、友里さんは机の方に来られて、「どんなことが、分かったのですか?」と関心ありげに訊い来た。店主は相手の顔をまっすぐに見られないままに、「この店に来られる方の、乗られている車の形で、大まかですが、その人の性格を判断できるようになりました」と話すと、沢辺さんは身をのりだす様にして、「どのような性格が・・・」と美しい顔を近づけてきた。美しい顔が目の前に現れたので、とっさに椅子を後ろに引くようにしてから車谷は、「丸っこい車の形のお車に乗られて来る方は、男性でも女性的な人が多くて、角ばったお車を乗られている方は、女性でも男性的な方が・・・」と、今までに来店されたお客さんと車を思い描きながら話すと、「車の形で、乗り手の性格が分かるなんて・・・」と、美しい顔に疑いの影が走らせた。その表情を見のがさなかった店主は、「友里さんは女性ですが、性格は男性的ですね」と確信を持って話すと、「女友達からは、ものの考え方は、男性的だといわれますが・・・。えっ、どうして・・・」と、驚かれた。店主が落ち着いて、先ほど窓越しに目にした友里さんの運転する姿を浮かべて、「乗っているスカイラインを目にしていますから、それで・・・」と語ると、「そうなのですね」とうなずいてから、「私の乗っている車は、確かに角ばった形をしていますし、私もめったにスカートをはかないので・・・、ご主人さんの性格判断に・・・」と認めるように云われた。

連作超短編小説 なつかし屋     <見えない特色>

*登場人物は、実在の人物ではありません。

つくば市の南部から月に一度ほどお見えになるガソリン・スタンドに勤務の並木さんが、来店するや、「一週間ほど前の事ですが、給油をしている時に、運転されていた方が、『この車はイスズのピアッツアと云うのですが、一九八◯年代につくられたもので、国産旧車にしては、“ユニーク”な車ですよ』と話したので、何が“他にない特色”なのか知りたくなって、それについて“何かあればいいな”と思って・・・」と、あまり期待はしていないような口ぶりで云われた。店主の車谷徹は、(今日は“ピアッツアのものがあれば”と課題をお持ちになって来られたな)と思いながら、「カタログは、いかがでしょう」と、八◯年代のイスズの乗用車カタログが入っているボックスの方に手で示すと、並木さんは入り口から向かって右の壁面に沿って横一列に並ぶ中ほどに寄っていかれた。
店主がレジのある机に向って比較的に新しめの自動車ムック本を透明のビニール袋に入れて値付けをしていると、ページを開いたままのカタログを前において机の方に向きをかえて並木さんが、「ピアッツアが、『特色のある車』と云われた理由が分かりました。日本車なのに、デザイナーはイタリア人だからですね」と見つけたことに喜ぶ表情をされたが、“そこのところかな”と半疑するような顔もされた。値付けする手を止めてボックスの方に顔をあげた店主は、「その車の一番の特色は、目にも見えますが、やはり“有名な外国人デザイナーがデザインしたところ”と思いますね」と答えると、並木さんは「してやったり」と云わんばかりの顔をされて、もう一度開いたままのピアッツアのカタログに目をやった。
 外国人デザイナーのイスズ車のカタログをレジ机の上におくと並木さんは唐突に、「行きつけの乗り物専門のプラモデル屋さんの事ですが・・・。そこのご主人は、お客と気心が通じると、奥から売り物の絶版プラモを出して来るのですよ。その店に通いだしたころは、乗り物の新製品を売るプラモ専門店であるところが特色と思っていたのですが、親しくなり絶版の乗り物プラモを見せられてから・・・、この店には“目に見えない特色”があるのだなと・・・」とまじめな顔で話された。彼の行きつけの店のことを突然に聞かされた車谷は、「確かに、ふだんに店頭では見れない品が、常連の客になると見れるのですから、その店の“目に見えない特色”に成り得ますね」と机越しにこたえた。
気に入ったイタリア人デザインのイスズ車のカタログをお買い求めになった並木さんが、店内をぐるりと見てから、「この店の特色は、くるま専門であることはわかりますが、ここの目に“見えない特色”は、なんでしょうか?」とやんわりと訊いてきた。車谷が、「うちは親しくなっても、奥から何も出てこないから・・・。なんだろう?」と笑いながら首を傾げてから、天井を見上げるようにして、「お客さんの一人が、『この店は、“何か有るかな”と思ってくると無いが、“こんなものがあるかな”と思ってくるとある店だな』と話していが・・・」と語ると、並木さんは、「それです。この店の目に“見えない特色”は・・・」と声高に云い、下げていたカタログの入った手提げ袋を上にして店主に見えるようにした。