小説 《都下恋物語》  -国分寺タウン②-

八月の半ば、夏季休暇のキャンパスに舞子は午後に出掛けて行った。夏休みの映画研究会の部室に舞子が向かったのは、入会している映研が十一月の初めに行われる美大祭に参加するための映画製作に力を入れているのですが、大学の夏休みに入る前に予定通りに進んでいないため、切迫感に襲われた芸術文化学科四年の前田代表は、夏休み中の会員に召集を掛けたのでした。大学の正門をくぐると舞子は、警備室から窓越に覗く守衛さんに軽く頭を下げて、集合時間に遅れをとっていたので、正門の下から図書館の上まで続くなだらかな坂を足早に上がり、坂の途中から右に折れ広いキャンパスを横切り、構内の外れにある三階建ての学生会館に向かった。舞子は学生会館の入口に着くと、額に滲む汗をハンカチで拭った。会館に入り階段を上がり二階の奥にある映研の会室の前に来ると、舞子は開いているドアから、窓の方を向いて立っている前田代表の後ろ姿と椅子に掛けた十人程の会員の背姿を見た。舞子は、急な呼び出しに集まった十人ほどの会員の後ろ姿と、肩を前に落していつもより小さく感じる大柄な代表の後ろ姿を見比べるようにして、(この人数で、会合が出来るのかな)と思いながら、足音を立てずに入室した。会員達の背後の空いている椅子に舞子が腰掛けると、会室の窓から外を見ていた前田代表がくるりと向きを変えると、ゆっくりと会員たちを見回した。
落胆している代表の顔を見ながら舞子は、(三十名ほど会員は居るけど、夏休みが終わるまで郷里から戻らないことを善としている地方出身者で占めている映研の集まりに、今日の三分の一の出席率は、良いほうである)と思うのでした。前田代表は夏休みの中に集まってくれた会員を前にして、「美大祭に参加するため映画を製作しているが、この映像作品は全員の力を結集するもの。郷里に帰っている仲間達が揃う、今月の末に改めて会合を開くので・・・、今日は・・・・・・」と申し訳なそうな顔をして述べた。代表の言葉を聞いて、映画製作が集まった人数では進行しないことを承知しているので、会員たちは不満も言わずに椅子から立ち上がった。皆と同じ気持ちで、舞子も椅子から立ち上がった。才能はあるが切迫すると自己中心的になる前田代表は、窓際の椅子に掛けて、室の片隅に立てかけた自らのギターを手にすると、お気に入りの曲を弾きだした。代表がギターをつま弾くのは、自らを反省するためであることを、映研の全員は知っていた。舞子は、つま弾く音がいつもより大きく響くのを感じて、急の召集したことを、代表が深く反省しているように思えた。会員たちは、決して上手ではない代表のつま弾くギターの音に、背を押されるように同好会室から出て行った。ギターの音に包まれるようにして、舞子も会室を後にした。
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