小説 《都下恋物語》 -国分寺タウン⑤-
お目当ての物がなかった舞子は、レジ台の横に設けられたポストカード・コーナーから、ニューヨークの高層ビルをモチーフにした絵はがきを数枚選んで購入すると、エレベーターを使わずに、階段で一階まで下りた。書店を出ると舞子は、(アルタ・ビルに寄って、ショップを見ていこう)と思い立ち、大通りに沿うようにして続く広い歩道をビルの方に向かって歩き出した。アルタ・ビルまでは三つほどの信号機があり、舞子は二つ目の信号で立ち止まった。青に変わるのを待ちながら赤い信号を見つめていた舞子は、 提出期限を迫っているのに思うように進まない課題作品が脳裏に浮かんできて、新宿に来た目的は、作品の資料探であったことを思い出した。都心に出てきた目的を思い出して舞子は、以前に同じデザイン学科の涼子から「高田馬場駅前にあるビック・ボックス側に出て、駅前の道路を挟んで正面に見えるビルに洋書を専門に売る本屋さんが有るよ」と教えてくれたことを思い出した。舞子は(高場馬場に、行こう)と思い立つと、信号が青に変わる直後に大通りを横切るように線引きされた横断歩道を渡り始めて、停止している車が動き出すころには新宿駅東口に方に向かって歩き出していた。
新宿駅から山手線で高田馬場駅に着いた舞子は、駅前を見回せるプラットホームから学友の涼子に教えられた洋書店の入っているビルを目星して、駅の東口側にあることを確認すると、ホームから改札口へと向かった。東口の改札を通りビック・ボックスを目の辺りにしながら、駅前の通りを挟んで建つお目当ての五階建てのビルを見上げながら、(この建物に、涼子の言っていた洋書店があるのかな)と訝しげに思った。舞子が駅前から見る限りでは、一階には洋菓子店、二階は書店、三階は喫茶店、四階は看板のみが掲げられた囲碁クラブ、五階は事務所になっていて、目指す洋書店を表示するものは一つも見えなかった。
舞子は通りを渡って建物の前に立つと、洋菓子屋の店内を通らずに上の階に行けるエスカレーターが右手の方に見えた。エスカレーターで二階に上がると、舞子は書店の売り場の中央に立っていた。エスカレーターから少し離れて見回した舞子は、レジ・カウンターを挟んで店内が雑誌コーナーと書籍コーナーで占められているのを目にした。レジ・カウンターの側らを通ると店の外に出られることが分った舞子は、レジに店員さんが居ないことに安堵して、ドアのない出口から外に出た。フロアーの通路に出た舞子は、右手に階段を見つけ、その脇の壁に洋書店名と場所の方向を示す矢印が書かれた貼り紙を見つけた。貼り紙の矢印に従って階段を上がった舞子は、涼子が教えてくれた洋書店を、三階の奥の右側に在るのを見つけた。
洋書店の前で(見つかって、良かったわ)と思いながら舞子は、ドアのない入り口を通って店内に入った。舞子は入店するや洋書屋さんの規模を(ニメートル程の間口だから、奥行きが十五メートル程ほどかな)と勝手に推測した。一メートルほどの幅の通路を、各国の洋雑誌が入ったスタンドが挟むようにして並んでいた。舞子が十メートルほど店の奥に踏み入ると、右手に五メートル四方のスペースが出現した。スペースの四方の壁は備え付けの本棚になっていて、棚に囲まれた中スペースにはビリヤード台ほどの大きさのテーブルが四つあり、そこには分野別に分けた洋書が平積みに置かれていた。平積みされた書の表紙には、自動車、電車、飛行機、船などの乗り物のタイトルばかりで、舞子は希望する洋書を目にすることがなかった。テーブルから周りの本棚に目を移した舞子は、窓際に近い棚に美術洋書と表示のプレートが見つけて、救われた気持ちで歩み寄っていた。
本棚から背表紙の題名から内容を判断して手にしていた舞子は、課題作品に役に立ちそうな洋書が見つけることは出来なかった。一通り見終わった舞子は、(本棚を一杯に埋めるだけの量の美術書は有るのだけど、その多くは一般の人向け書であり、美大で学ぶ専門的な書は売り上げに繋がらないのか、ここの店も揃えていない)と口惜しく思ったのでした。
レジの傍らで机上のパソコンを操作し時々は店内をみまわしては画面に向かっている女の店員さんに、舞子は軽くお辞儀をするようにして出口に向かった。店の外に出た舞子はエレベーターで下りようとボタンを押して扉が開くのを待っていると、側を通った事務社員風の二人の女性が「この階においしい紅茶の店がある」と話していたのを耳にして、扉が開いたのと同時に、エレベーターから離れて歩き出していた。フロアーの通路をぐるりと回って二人が話していた喫茶店を見つけると、木製のドアを開けて店内に入った。窓際の席に座り注文を済ませた舞子は、高田馬場駅前の行き交う人々を見ながら、進まぬ課題作品を思い浮かべていた。
新宿駅から山手線で高田馬場駅に着いた舞子は、駅前を見回せるプラットホームから学友の涼子に教えられた洋書店の入っているビルを目星して、駅の東口側にあることを確認すると、ホームから改札口へと向かった。東口の改札を通りビック・ボックスを目の辺りにしながら、駅前の通りを挟んで建つお目当ての五階建てのビルを見上げながら、(この建物に、涼子の言っていた洋書店があるのかな)と訝しげに思った。舞子が駅前から見る限りでは、一階には洋菓子店、二階は書店、三階は喫茶店、四階は看板のみが掲げられた囲碁クラブ、五階は事務所になっていて、目指す洋書店を表示するものは一つも見えなかった。
舞子は通りを渡って建物の前に立つと、洋菓子屋の店内を通らずに上の階に行けるエスカレーターが右手の方に見えた。エスカレーターで二階に上がると、舞子は書店の売り場の中央に立っていた。エスカレーターから少し離れて見回した舞子は、レジ・カウンターを挟んで店内が雑誌コーナーと書籍コーナーで占められているのを目にした。レジ・カウンターの側らを通ると店の外に出られることが分った舞子は、レジに店員さんが居ないことに安堵して、ドアのない出口から外に出た。フロアーの通路に出た舞子は、右手に階段を見つけ、その脇の壁に洋書店名と場所の方向を示す矢印が書かれた貼り紙を見つけた。貼り紙の矢印に従って階段を上がった舞子は、涼子が教えてくれた洋書店を、三階の奥の右側に在るのを見つけた。
洋書店の前で(見つかって、良かったわ)と思いながら舞子は、ドアのない入り口を通って店内に入った。舞子は入店するや洋書屋さんの規模を(ニメートル程の間口だから、奥行きが十五メートル程ほどかな)と勝手に推測した。一メートルほどの幅の通路を、各国の洋雑誌が入ったスタンドが挟むようにして並んでいた。舞子が十メートルほど店の奥に踏み入ると、右手に五メートル四方のスペースが出現した。スペースの四方の壁は備え付けの本棚になっていて、棚に囲まれた中スペースにはビリヤード台ほどの大きさのテーブルが四つあり、そこには分野別に分けた洋書が平積みに置かれていた。平積みされた書の表紙には、自動車、電車、飛行機、船などの乗り物のタイトルばかりで、舞子は希望する洋書を目にすることがなかった。テーブルから周りの本棚に目を移した舞子は、窓際に近い棚に美術洋書と表示のプレートが見つけて、救われた気持ちで歩み寄っていた。
本棚から背表紙の題名から内容を判断して手にしていた舞子は、課題作品に役に立ちそうな洋書が見つけることは出来なかった。一通り見終わった舞子は、(本棚を一杯に埋めるだけの量の美術書は有るのだけど、その多くは一般の人向け書であり、美大で学ぶ専門的な書は売り上げに繋がらないのか、ここの店も揃えていない)と口惜しく思ったのでした。
レジの傍らで机上のパソコンを操作し時々は店内をみまわしては画面に向かっている女の店員さんに、舞子は軽くお辞儀をするようにして出口に向かった。店の外に出た舞子はエレベーターで下りようとボタンを押して扉が開くのを待っていると、側を通った事務社員風の二人の女性が「この階においしい紅茶の店がある」と話していたのを耳にして、扉が開いたのと同時に、エレベーターから離れて歩き出していた。フロアーの通路をぐるりと回って二人が話していた喫茶店を見つけると、木製のドアを開けて店内に入った。窓際の席に座り注文を済ませた舞子は、高田馬場駅前の行き交う人々を見ながら、進まぬ課題作品を思い浮かべていた。