小説 《都下恋物語》 -小金井美術研究所①-
十月の最初の土曜日。国分寺駅の近くのファミリーレストランで行われた映画研究会の集まりが午後六時に終わると、舞子はサークルの先輩である西沢を引っ張るようにして、美術洋書の店に連れて行った。赤いバイクの側らからショー・ウィンドー越しに店内を覗いてから、舞子はドアを開いた。レジのある机の傍らに立って検品していた小松川店長は、「いらっしゃいませ」と入口の方に向いて来店の挨拶をして、お客が舞子であると分ると笑顔になっていた。長身の男性が舞子に続いて店内に姿を現すと、挨拶をした小松川店長の顔は少し強張っていた。背の高い男性は軽く会釈をすると、左壁に面して備え本棚の中程に立つ舞子の側らに並ぶようにして立った。
舞子は、中ほどの本棚の上三段目から画集を引きだすと、傍らの西沢先輩に「以前から探されていたエコン・シーレの画集って、これではありませんか?」と言って、画集の表紙を見せた。舞子の手にする画集を見て、西沢先輩の目がきらりと光った。先輩は、舞子から手渡された画集を開いた先輩は、(このような作品が紹介されていたのか)と言うような顔をして見入り、ページをめくるにつれて、長身の体が嬉しさを表すように揺れていた。傍らの西沢先輩の様子を見ながら、舞子は(この店に、無理矢理であったけど、連れてきてよかった)と思った。西沢先輩が画集を見終わると、舞子の方を向いて「まさしく、長年にわたり探していた画集だよ。見つけてくれて、ありがとう」と礼を言った。舞子はにこにこしながら「先輩のお役に立って、嬉しいです」と応えた。
シーレの画集をしっかり手に持ちながら本棚の全体を見回した西沢先輩は、「都心から離れた国分寺に、美術書専門の洋書屋さんが在るなんて・・・・・・」と小声であつたが驚くとともに感心するようなに云った。本棚を見つめて小声でつぶやく長身の男性と舞子とを見比べながら、店長の小松川は(あの背の高い男は、軽部さんの彼氏であろう)と思った。
舞子は、今度は自分のための美術書を探すために、ウィンドー近くの本棚に手を伸ばしていた。西沢先輩は中程の本棚の前に立って、関心ある画集を手にしては中をぱらぱらとめくって元に戻していた。舞子がさがしているものが見つけられないのに、先輩は見つけたものをレジのある机上に「これは、購入するものですから・・・」と言って積み重ねるようにして置いていった。舞子がこれはと思われるデザイン集を手にした時に、西沢先輩の携帯電話が鳴り、携帯を耳に当てながら、先輩は店の外に出ていった。赤いバイクの側らに立って携帯で話をしている先輩を、舞子はショー・ウィンドー越に見たが、すぐに視線を本棚に戻して、デザイン関連が収まっている棚に手を伸ばした。
携帯を夏の上着の胸ポケットにしまいながら店の中に戻ってきた西沢先輩は、エゴン・シーレの画集を含めて五冊ほどの美術書の支払いを済ませると、足早に店を後にした。西沢先輩は店を出て行く際に、早口に「連れてきてくれて、ありがとう」と述べたので、舞子は「どう、いたしまして・・・」と微笑みながら応えた。
舞子は、中ほどの本棚の上三段目から画集を引きだすと、傍らの西沢先輩に「以前から探されていたエコン・シーレの画集って、これではありませんか?」と言って、画集の表紙を見せた。舞子の手にする画集を見て、西沢先輩の目がきらりと光った。先輩は、舞子から手渡された画集を開いた先輩は、(このような作品が紹介されていたのか)と言うような顔をして見入り、ページをめくるにつれて、長身の体が嬉しさを表すように揺れていた。傍らの西沢先輩の様子を見ながら、舞子は(この店に、無理矢理であったけど、連れてきてよかった)と思った。西沢先輩が画集を見終わると、舞子の方を向いて「まさしく、長年にわたり探していた画集だよ。見つけてくれて、ありがとう」と礼を言った。舞子はにこにこしながら「先輩のお役に立って、嬉しいです」と応えた。
シーレの画集をしっかり手に持ちながら本棚の全体を見回した西沢先輩は、「都心から離れた国分寺に、美術書専門の洋書屋さんが在るなんて・・・・・・」と小声であつたが驚くとともに感心するようなに云った。本棚を見つめて小声でつぶやく長身の男性と舞子とを見比べながら、店長の小松川は(あの背の高い男は、軽部さんの彼氏であろう)と思った。
舞子は、今度は自分のための美術書を探すために、ウィンドー近くの本棚に手を伸ばしていた。西沢先輩は中程の本棚の前に立って、関心ある画集を手にしては中をぱらぱらとめくって元に戻していた。舞子がさがしているものが見つけられないのに、先輩は見つけたものをレジのある机上に「これは、購入するものですから・・・」と言って積み重ねるようにして置いていった。舞子がこれはと思われるデザイン集を手にした時に、西沢先輩の携帯電話が鳴り、携帯を耳に当てながら、先輩は店の外に出ていった。赤いバイクの側らに立って携帯で話をしている先輩を、舞子はショー・ウィンドー越に見たが、すぐに視線を本棚に戻して、デザイン関連が収まっている棚に手を伸ばした。
携帯を夏の上着の胸ポケットにしまいながら店の中に戻ってきた西沢先輩は、エゴン・シーレの画集を含めて五冊ほどの美術書の支払いを済ませると、足早に店を後にした。西沢先輩は店を出て行く際に、早口に「連れてきてくれて、ありがとう」と述べたので、舞子は「どう、いたしまして・・・」と微笑みながら応えた。