店主は妄想族(私小説) その十「赤丸のしるし」 

 レジ机に向かい店頭に出すためのカタログを透明のビニール袋に入れていた私は、店の前の駐車場で車のドアが閉まる音を耳にしたので机越しに窓の外をうかがうと、入口に年配の男性が立つのが見えた。ご来店の挨拶をするためにドアが開くのを待ち構えたが、何度か来店されて見覚えのある年配の男性は、入口の前に立っているが一向に店の中に入って来なかった。私は(どうしたのかな)と思って立ちあがってドアの方に近づくと、店舗の入り口と横並びの二階の住居の玄関戸のインターホーンを押していた。「こちらが、入口です」とドアを半開きにして顔だけ出して伝えると、「こっちだったな」と男性は照れ笑いをしながら、大きくドアを開いて店の中に入って来られた。
 七坪ほどの店の奥の壁際に備えた三つある本棚の真ん中に立って六十代の男性は、棚の上段から中段にかけて並ぶ昭和三十年代から四十年代の自動車誌を取り出してはページを丁寧にめくり戻していた。私はカタログの入れ終えた透明のビニール袋の表の右上に、すでに手書きで値段を書き終えた小さなラベルを貼ろうとして、目の前においた六十部ほどの一番上のカタログを手にしたが、先ほどの年配の男性との入口でのやり取りが頭に現れて、この男性が三度目に来店された時を思いだしてしまった。その時のやり取りとは、「一点が百円値の当店のポイントカードをお持ちですか」と三冊ほどの自動車誌をレジにお持ちになった際に男性に訊ねると、「あぁ、カードね、持っているよ」と応えて、いろんなカードが混じっている財布から一枚取り出して「はい」と渡された。当店の発行するカードではなくて別のお店のカードだったので私は、「このような表示のカードです」とレジの横から取り出したポイントカードを見せると、「あぁ、そうか」とひっこめ、当店のカードを出されたのです。カタログの入った三十部ほどの透明の袋に値段のラベルを貼り終えたところで、男性が昭和三十九年代のモーターファン誌とモーターマガジン誌の二冊をレジの机にお持ちになった。私は会計するために立ち上がり一冊づつ手にして、(モーターマガジン誌の方は、同じ雑誌でカードのポイントが使える赤丸印もあったはず)と思いながら、「一点が百円値のポイントカードをお持ちですか?」と訊ねると、「あぁ、持っているよ」と応えて、ポケットから出した財布から当店のポイントカードを出してくれた。カードの裏に七個のハンコが押されいるのを確かめてから私は、「この時点で七百円分と交換できます。確か、こちらの一冊はポイントの使えるのがあったはずですが、それになされば、七百円を引いた代金になりますよ」と話して、「どういたしますか?」と訊いてみた。すると六十代の男性は、「先ほど見ていた時に、同じ雑誌であったが、値段の横に赤丸しるしが付いていたので取らなかったが、ポイントが使えるなら、そちらにするよ」と応えた。男性が赤丸しるしに代えると言われたので私は、赤丸のない値段の雑誌を本棚に戻して、赤丸の印の付いたラベルの貼った雑誌と手にして机に戻り、二冊分より一冊はポイント分を引いた代金をいただいた。
 お買い上げのお品の入ったシルバー色のビニール袋を男性に手渡してから、「お好きなポストカードがありましたら、一枚どうぞ」と千円以上をお買いになられた方にプレゼントしているポストカードをすすめると、「あぁ、そうだな」と応えて、レジの前にある仕切りのあるカード・ケースに手を伸ばされた。「これから、どちらかに行かれるのですか」と椅子に掛けずに私が訊ねると、「このまま、どこも寄らずに、帰ります」とあっさりと応えて、一枚を手に取ると「これ、いただきます」と言って、シルバーの袋に滑り込ませた。「ありがとうございました」と礼を言うと、くるりと向きを変えて出口の方に向かいドアを半ば開いたままにしてレジ机の方を向かれ、「値段に赤丸のしるしの付いている品は、”要注意のしるし”と思って、手を出さなかったんだよ」と苦笑しながら言われた。「大丈夫ですよ。赤丸のしるしは、”お得のしるし”です」と応えると、笑みされた男性は、「ありがとう」という言葉を店内に残して、ドアが閉まる直後に外に出て行かれた。

★7月のフェア<「自動車誌で見る、1970年代の国産乗用車(増刊・別冊も含む)」マガジン&マガジン フェア。モーターマガジン誌、モーターファン誌、等。6/29(土)~7/7(日)>

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